パルメザンの感想記事まとめ

ストップモーションを使用している作品や、アートアニメーション、映画、映像作品の感想、解釈、妄想などを自分用に纏めるためのもの。 ここと同じ趣旨でやっているTwitter→@QNpzcHeyiagTnVV

ブラザーズクエイ・短編集Ⅲ〜鼻腔に黴と埃の臭いが纏わりつく奇妙な世界でマラソン一周〜

「櫛、(眠の博物館から)」
横になっている実写の女性映像から、サルバドール・ダリが描きそうな幻想的でシュールで陰鬱で温度が全くない砂漠のような場面へ
ダリもだけど、ベクシンスキーとか人の無意識の狂気や悪夢を描いた絵画のような世界観

(個人的にダリは夢や無意識の不可解さ、不気味さ、ベクシンスキーは、人の魂や意識の根底には、恐怖そのものが眠っているという前提で、その精神の深層世界を這い回る捕食者たちというイメージだが)

現実世界と思しき寝具の中の女性のシーンはモノクロなのに、人形のコマ撮りシーンはカラフルで、
この女性にとっては、現実より夢、空想、妄想、おとぎ話の中の方が綺麗な世界である、という考察は陳腐すぎるかな

人形は肌や見た目がボロボロなのに、中のグラスアイは新品のようにつやつやしている。

寝ている女性の四肢の動きと連動するように変化する人形の世界
現実より夢の世界の方が素晴らしい、と言うよりは、眠りによって個人の意識から解き放たれたクオリアが無意識下の世界を放浪するという感じなのかも?

深い眠りに落ちていても、どこからか響いてくる男性の大声(家族が大声を出し、それが女性の寝室にまできこえてきている?過去の嫌な記憶をフラッシュバック?)によって指をぴくぴくと反応させる女性。
現実世界で男性に抑圧されている女性の願望的な面というか、夢の中で自分の精神や傷を癒そう、救おうとしているのかも・・・?

目覚めるために梯子で上に昇っていく人形(女性の夢の世界の人格や無意識?)
男性の怒号で起こされたのかな

BGMの弦楽器の音に合わせるように、目覚めた女性が櫛の歯を親指でいじる
確かに、プインって似たような音出るよね
意味深な最後のワード「森の目」・・・なんだそりゃ
(ローベルト・ヴァルザーの作品見たら少し分かりやすくなるのかな、軽く調べてみたけどどの作品が該当しているのかよく分からなかった)


「人為的な透視図法、またはアナモルフォーシス(歪像)」

他のクエイ作品と同様、お馴染みの人形も出てくるが、冒頭の説明にあるように、アニメーション、2D的な表現をより意識した作品であり、当時の特殊な絵画作品や、それに使用された技法をクエイ兄弟の映像的手腕でユニークに紹介されている。
これまでのかなり抽象的な作中の文章説明とうってかわり、普通の説明的なナレーションもあり、視聴者にとって一番丁寧で一番分かりやすい作品かもしれない。

美術の教科書に乗っていない、有名な美術館に収蔵されていない、どこの記録にも残っていない、何処の人の目にも脳にも記憶されていないだけで、歴史の狭間に埋もれた素晴らしい作品が沢山、それこそこの地球上の砂の数より、星の海に浮かぶ礫の数よりあるんだろう。
けれども、どれだけ当時や今や未来の価値観で、素晴らしいと言われる作品でも、この世に存在する物質である以上、少しずつ破損していずれ、全くの無に帰ってしまう。
この二人は、時の魔の手から残されたそういった一つ一つの代物を拾い集めて、より人の心に遺されるように、この映像作品を作ったのかな、と思った。

作中に「アナモルフォーシスは人の解釈を操る描法だ」という説明があったけれど、この兄弟の作品も多少方向性が違うだけで、根底には同じものが流れていると思う。
だからこそ、クエイ兄弟は、アナモルフォーシスという技法に惹かれて、この作品を撮るきっかけになったのかも。

「不在」これはもう、完全に全く意味が分からんかった・・・
今更言うのもなんだけど、クエイ兄弟は、忍び寄る緊迫感というか、不安だけれどそこまで不快な感じはしない、むしろ心地よい不快さ、というか。
普通の映画のドキドキハラハラするシーンが、ぶちまけられたガソリンに引火寸前なものだとしたら、クエイ兄弟のそれは、誰もいない廃墟で雨水の溜まった容器が人知れず音もなく倒れて、ボロボロになった床や絨毯に染み込んでいく、それを誰も見ていないし確認していないので、私たちにとっては無いも同然なのだけれど、影の世界で起きたその現象自体は、それ自体は確実にある、みたいな、そういうのをそのまま、なんの感傷に浸る暇も与えてくれずに、撮るのが上手いよね、という事を再確認した映像だった
でも、この「不在」は、空中にたむろしている小蠅の群れに頭から突っ込んでいって、最初は羽音や顔に止まる小蠅の足の感触が不快だったけれど、仕方なしにそのまま我慢していたら、耳や鼻の穴から入り込んできて、脳ミソかじられていたみたいな感じが少し強いかも
(自分で言ってて意味わからなくなった)

最後のシーン、施設から夫へ「来て、あなた」と手紙を書いた。
何らかの精神的な病気の症状があり、入院か隔離されている人(女性)の目線から見える世界、なんだろうか・・・?

「ファントム・ミュージアム―ヘンリー・ウェルカム卿の医学コレクション保管庫への気儘な侵入」
字数的には、ギルガメッシュ叙事詩を〜(略)の次くらいに長いが、これはまだ分かりやすいタイトル

ヘンリー・ウェルカム卿という人物の実際のコレクションを使って撮影しているのだろうか?
(調べると、製薬起業家、収集家としてかなり有名な人みたい。全然知らなかったのでお恥ずかしい)

だとしたら、医学的にも歴史的にも貴重なものばかりで撮影中のちょっとした事故で破損したら、賠償額がとんでもない事になりそう、と一視聴者でしかないのに余計な心配を。
(損害賠償と言うけど、その品物が今日までその姿を保たれてきた事に意味と価値があるわけで、本当の意味ではお金ではあらがえないよね・・・)

映像的には、金と余暇を持て余した奇特な(ちょっと悪趣味が入ってるとも言える)蒐集家のコレクション紹介映像と言ってもいいと思う。

つーかどういう経緯でこの作品を撮るようになったんだろう。
元々、クエイ兄弟がヘンリー卿のコレクションに興味があったのか、それかこの二人の作風を知った、現在コレクションを保管・管理している人物か団体から依頼が来たのかな・・・

医学コレクションと書いてあるけど、ほとんどが性にまつわるものだな。
アジアっぽい顔つきのなんだこれ、春画をそのまま立体化させたような置物(?)もあるので、アジア諸国や中国や日本のものも相当数コレクションの中にあるのかしら。
変な形の容器の中に男女の2人組が入ってるものは、
蓮根を模したものなのかな?
なにかアジアの言い伝えを元にしたものなのかもしれない
蓮根は根(株)で増えるし、花は綺麗だし多産や回春などの象徴だったのかも
「歯」が着いていて、隙間に突っ込んだら確実にナニがズタボロになる貞操帯うげー
ヴァギナデンダータかよ
まぁ女性にそんな酷いことをするやつが悪いんですが、当時はこれくらいしないと女性の貞操を守れないぐらいの治安だという事だろうし
でもこれも多分男性から女性に強制着用、しかも俺の妻になる女には、自分一人でたっぷり味わうために清らかな処女でいてもらわないとな!という違う部類の暴力でもあるよなぁとか感じてしまった。

そういう行為やものに直接的に関連しているコレクションを使って、性交▷妊娠▷出産▷赤ん坊という一連のシーン模してるな

妊娠している女性の中に母胎の中にいる胎児や内蔵も確認することが出来る人体模型
どれくらい前の、どの国のどの地域のものというのは具体的に分から無いし、 当時の医学的知識を元に作られたと思うので、現代で正しいかどうかはともかく、木彫りなのにとても精巧で驚いてしまった
出産中に母子ともに亡くなってしまった遺体を解剖して、それを参考に作られたのかな・・・

ひいいいロボトミー手術なんかで、頭蓋骨に穴を開けるドリルだァァァァ
こういう道具にも一定の華美さというか、洒落た感じの見た目をしているのなんなの一体
いや、当時はこれが正しい方法だと思われていたのかもしれないけどさ
や〜やっぱり頭蓋骨開けるのに、このドリルじゃないと気分上がらんわ〜とか言ってるマッドサイエンティストしか浮かばねーよ

故人を偲ぶモーニングジュエリーの一種として、故人の髪をそのまま使ったり、細工されたアクセサリーは結構あったようですね
現代日本人的価値観からすれば、髪には情念が宿る(髪の伸びる呪いの日本人形とか)ので気持ち悪いとか思われそうだが、髪を使うを人体や動物の毛を食べる虫とか湧きそうなのでそれを含めて保存する技術なども私はこういうの素晴らしいと思うな

途中、子供のミイラも出てきたので、もしかしてこれは、ようやく待望の子宝に恵まれたのに、出産後に子供をなくして、母親がその髪をモーニングジュエリーに、という事なのかしら・・・

それで最後に、男性の上半身を模した模型(これは恐らくコレクションではなくて、撮影用に制作したオブジェだと思われる)喉仏の辺りから肉を取り出したのは一体?



自分が好みなのは圧倒的にⅠとIIIなんだなぁ
IIは、(主にスティルナハトシリーズが)ヴィジュアルよりも哲学的な内容に全振りしていて正直ついていけなかった
Ⅰは、大体が物語仕立てになっているし、クエイ兄弟短編集おためし編と言った感じであれでも多分、俺達の作風はこうだぜ!と分かりやすいように説明してるんだと思う
IIは、なーんか随分とついてこられるやつだけついてこい!と奥までかっ飛ばして行ってしまった感じ
言うなれば、ⅠスタートでとIIIゴール、IIがスタートから1番遠い距離の、一周コースのちょうど半分のところところみたいな
(もっと上手いこと説明しろよ)